私は、その日、卒業した高校の教会(カトリックの女子高だった)のイベントに参加するため、朝、七時五八分の電車に乗るために、急いでいた。
玄関を出て、見送りに出てくれた母に「行ってきます」と、言い、走り出した。
肩には大きな荷物を抱え、思ったように走れないなぁと、思いながら、門を出た瞬間。
私は、電気にあたったように、その場を動けなくなってしまった。
声にならない声が「何で?どうして?何でここにいるの?」言っていた。
不審に思った母が、門の外に出てきた。
門の横には、車が一台。
その中には、男の子が二人、座っている。
もちろん、私の知っている二人だ。
私は、前日まで、大学の友達数人と、スキーに行っていた。
彼らは、その時、一緒に行ったメンバーである。
スキー最終日の夜、彼らから同時に告白され、動揺したり、考えたりしていることを母には、帰ってきてすぐ、話してあった。
もちろん、興奮気味にである。
その当の本人たちが、早朝、家の前にいたら驚くのも、しごく当然であろう。
彼らは、素早く車を降り、「おはよう」と、そろって言った。
「すみません、朝早くに。どうしても、会いたくて、ここで夜明かししてしまいました。」と、新ちゃんが言った。
どちらかといえば大人しい大田君は、新ちゃんの言葉に、うなずくだけだった。
母が言った。
「そうなの…申し訳ないのだけど、娘はこれから、ボランティアに行かなくちゃいけないの。
せっかく来てくださって申し訳ないけど…茅ヶ崎駅まで送ってくださる?」
「はい、喜んで。失礼します」と、新ちゃん。
「失礼しました」と、大田君。私は、後ろの席に乗り、駅まで送ってもらった。
「会いたかったんだ。ごめんね。」新ちゃんが言った。
「びっくりしちゃった」と、私。頭の中は、グルグルである。
駅に着き、改札口まで送ってもらい、定期で改札を抜けると、後ろを振り返り、お辞儀をした。
「また、ゆっくり会いたいです」と、新ちゃん。
「僕も」と、大田君。
彼らにもう一度お辞儀をし、ホームの待ち合わせ場所に向った。
雪ちゃんは、もう、来ていた。彼女は、中学からの親友。
大学に行っている今でも、時々、シスターに頼まれ、一緒に母校のボランティアに参加していたし、SNSサイトでも日記にコメントし合ったりしている。
電車の中で、スキーに言った時から、今朝までのことを、一気に雪ちゃんに喋り、少し落ち着いた。
「で?どっちが好きなの?」
「そんなのわかんないよ。だって、会ってまだ、何日も経っていないんだよ」
「そう?なんか決まっている気がするけどね」と、雪ちゃんは、いやに自信ありげに言った。
私は自分の心もわからないのに…雪ちゃんたら…でも、私の気持ち?もう一度、考えてみようと、思った。
私たちは、大忙しの二泊三日ボランティアを終え、帰途に着いた。
「考えがまとまったら、報告してよねぇ」と雪ちゃんに言われ、改札口で別れた。
家に帰るなり、母は、あの朝のことを、興奮気味に話し始めた。
あの朝、母の落ち着いた対応ぶりに、驚いたのだが、実は、冷静ではなかったと、その時初めて知った。
「男の子ってすごいわねぇ。」と、しきりに何度も言った。
二人姉妹の私も、同感だった。
家もよくわからず、会えるかもわからないのに、朝まで待つ…すごいパワーと情熱である。
「新ちゃんって元気良くていいわね。大田君は、大人しいものねぇ」と、すでに、とてもよく知っている人のように語った。
「でも、お母さん、男の人は、大学言ってなくちゃって言ってたでしょ?新ちゃんは社会人だし、大田君は、大学生だよ。」
「あら?そうだったかしら?」と、言う始末。
「そうね、男の人の方が、学歴ないと気にするものねぇ」
「そうだよ。お母さん、そう、私に言ったもん」いささか、感情的になっている自分に気が付いた。
私、大田君が好きなのかな?
また恋愛相談koidanで相談してみようかな。
単身赴任先から、久しぶりに帰宅していた父が言った。
「女の子って、恋をすると、こんなに変わるもんかねぇ。蕾が、開き始めたって感じだねぇ」と
珍しく、文学的なことを言ったので、母と顔を見合わせ、笑ってしまった。
恋の始まりなのかな…と、思った。庭の沈丁花が、満開で、とてもいい香りをさせていた。